王様

時間があると2万歩ぐらい
散歩していた父なのに
引っ越しだ、何だで
ここ2週間ほどすっかり歩かなくなっていた。

よく歩いていたころは
左半身不随とは思えないほどのスピードで
歩けるようになっていたのに
今ではすっかり足が弱くなってしまっていた。。。

さすがに父も
そろそろトレーニングを開始しないと！
と思ったようで
いつもの散歩コースに出かけてみたが
以前とは違い、
何とも疲れ果てて
マンションまでやっとの思いで帰ってきた。

父の部屋はエレベーターを降りて遠い。
一番奥から2番目。

棒のようになっている足を引きずって、
やっと着いた！と
鍵を入れるがなかなかドアが開かない。

何度もガチャガチャしていたら
部屋の中から
『どちら様ですか？』と声がしたらしい。

俺の部屋なのに。。。と思った父は
『そちらこそ、どちらさんですか？』と尋ね返すと
『403ですが・・・』と。

父の部屋は４０２。
そう！歩き疲れた父は自分の部屋を
エレベーター寄りに一つ間違えていたのだ。

父はこの日の報告を
『思い返してもおかしくて、おかしくて!!!』
と楽しそうに話してくれたが、
間違われた部屋の方は
さぞ怖かっただろう。。。

早速、父の部屋のドアの前には
目印になるよう、ド派手な傘や
真っ赤ないすなど山ほどおいた。

部屋の中から『どちら様ですか？』と
尋ねられていること自体に不安も覚えず、
また、怯みもせず
よく『そちらこそ、どちら様ですか？』と
尋ねかえしたなぁ。。。

 
高校を中退し、
わかーい頃から独立し、
自由に人生を謳歌してきた父は
8月生まれのしし座。
まさに王様！

今回のことでも落ち込むどころか
面白がっている。。。

これから始まる珍道中。
今回のことなどきっと序の口のはず。。。

心配ではあるが
それ以上に楽しみである。